パラグアイ出身のギタリストであり作曲家のアグスティン・バリオス=マンゴレ(Agustin Barrios Mangore, 1885年5月5日~1944年8月7日)は多くのクラシックギターの名曲を書き残しており、天才作曲家だと私は思います。
今の若いクラシックギター愛好者の人達にとっては、ギターを習い始めた時からアグスティン・バリオスの曲の楽譜は普通にあって、当たり前のようにバリオスの曲を弾いていただろうと思います。しかし、私の若い頃にはバリオスの曲を弾いている人はプロでもアマチュアでも誰もおらず、楽譜も売っていませんでした。つまり、私の若い頃にはバリオスは事実上存在していなかったのです。
<自己流でギターの練習を始める@静岡市の自宅 1963年/高校2年>
さすがに、高校3年の時は受験勉強のため1年間ギターをやめていましたが、大学に入ると、また練習を再開しました。
学生時代には(つまり、50年も前のことですが)、私の友人でも、先輩でもバリオスの曲を弾いている人は一人もいませんでしたし、アグスティン・バリオスと言う名前すら日本では知られていませんでした。これは当時、ヨーロッパでも同じ状況だったようです。
私の若い頃、1960年代後半~1970年代には、クラシックギターを弾く人達は、私を含め、好楽社のギターピースを買って弾いていたものでした。その頃のギターピースの目録を今見ても、フランシスコ・タレガやフェルナンド・ソル、ビラ=ロボスの曲はたくさん入っていますが、アグスティン・バリオスの曲は一曲もありません(下の写真)。
そして、私は大学を卒業して会社に就職すると、入社1年目から平日は残業の連続でした。週末の、時間のある時に会社の独身寮で、相変わらずの自己流のギターを一人で慰めに弾く程度でした。そして、特にギター雑誌を読むわけではなく、国内外のクラシックギター界の情報からも遠ざかっていました。30歳を過ぎて結婚し、子供ができた頃からはとうとうギターを弾かなくなり、その後約25年間というもの、全くギターから離れていました。
その後、還暦近く、会社生活も終わりに近づいた頃、家内から「またギターでも弾いてみたらどう?」と言われました。そうだ、自分にはギターがあったんだと思い、ほこりを被っていたギターを引っ張り出してきて、久し振りに弾いてみました。そしたら、たちまち再びクラシックギターに病み付きになりました。
おおよそ25年振りにギターの練習を再開し、周囲のギター愛好者たちを見ると、大勢の人達がバリオスの曲を弾いています。そして、きれいな曲、良い曲がたくさんあります。私も60歳を過ぎて、初めてバリオスの曲を練習することになりました。
私は長い間ギター界の情報から離れていましたので正確なことは分かりませんが、日本でバリオスの曲が弾かれることが多くなったのは1980年を過ぎてからだと推測されます。欧米でもこの状況は似たようなものだったようです。20世紀最大の巨匠であり、不世出の天才、アンドレス・セゴビア(1893年~1987年)はバリオスの曲を1曲も弾いていません(この事については別の記事で触れるつもりです)。もう一人の20世紀を代表するギタリスト、ナルシソ・イエペス(1927年~1997年)もバリオスの曲を録音していないようです。
<John Williams 演奏 Agstine Barrios 作曲 「ワルツ第4番」>
私が調べたところでは、バリオスの作品を評価し紹介した先駆者は現代の巨匠、ジョン・ウィリアムズ(1941年~)です。ジョン・ウィリアムズは1953年にアリリオ・ディアス(ヴェネズエラ生れ、1923年~2016年)から「パラグァイ舞曲」と「昔のメダル」の楽譜をもらい、バリオスに傾倒するようになったそうです。
それでも、バリオスが1944年に亡くなってからは、ずいぶん年数がたっています。
いずれにしても、バリオスは彼の母国や南米の一部の地域を除いては、全世界において長い間、正当に評価されていませんでした。
このような天才作曲家なのに、それは何故なのでしょうか?
私にとってはバリオスは謎めいた人物に思えました。そして、この疑問点から私のバリオスへの興味、好奇心は始まり、バリオスについて色々調べてみることになりました。バリオスについて調べるに従って、人間としてのバリオス、そして、バリオスの生き方に私はなにかシンパシーを感じるようになりました。
・・・アグスティン・バリオスについては続きを掲載する予定です・・・
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A. バリオス研究ノート No.1 → 「長い間評価されなかった天才作曲家、バリオス」
A. バリオス研究ノート No.2 → 「月刊誌『現代ギター』1981年12月号<特集・幻の巨匠バリオス>」
A. バリオス研究ノート No.3 →「バリオス伝記本『Six Silver Moonbeams: The Life and Times of Agustin Barrios Mangoré』」
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